近年人気が高まっているエキゾチックアニマルの中でも、その愛らしい姿と比較的長い寿命が魅力で飼い始める人が多いモモンガですが、インターネットで検索すると「突然死」というワードも出てきます。
「モモンガには突然死が多い」といわれているのは本当なのでしょうか。
このコラムではモモンガの生態や突然死について、また長生きしてもらうために気を付けると良いことなどをご紹介します。
この記事の監修者
高間 健太郎
(獣医師)
大阪府立大学農学部獣医学科を卒業後、動物病院に勤務。診察の際は「自分が飼っている動物ならどうするか」を基準に、飼い主と動物の気持ちに寄り添って判断するのがモットー。経験と知識に基づいた情報を発信し、ペットに関するお困り事の解消を目指します。
人気のペット「モモンガ」ってどんな動物?
大きな瞳とふわふわの毛並み、人の手に乗るほどの小さな体、その愛くるしい姿と、人に慣れやすい習性、ペット不可のマンションでも小鳥などと同じく例外的に飼っても良いと許可されることもあり、飼う人が増えたモモンガ。
とても可愛らしいモモンガですが、その特徴や詳しい習性を知らないままに飼うことは、飼い主様にとってもモモンガにとっても良くありません。
この章ではモモンガがどのような動物なのかを詳しく見ていきます。
モモンガの種類
モモンガにはたくさんの種類がありますが、日本国内でペットとして飼われているのは主に「アメリカモモンガ(通称:アメモモ)」と「フクロモモンガ(通称:フクモモ)」の2種類です。
同じ「モモンガ」という名前がついていますが「アメリカモモンガ」はリス科で「フクロモモンガ」はフクロモモンガ科なので、姿形は似ているのですが別の動物になります。
アメリカモモンガの特徴
体長:13~15㎝
体重:45~113g
尾長:8~12㎝
カナダ南部からアメリカ合衆国東部、メキシコ、ホンジュラスなどの国々に生息していますが、現在は輸入規制で売買が制限されており、日本でペットとして販売されているアメリカモモンガは日本国内で繁殖されたものがほとんどです。
一生のほとんどを木の上で過ごし、体にある皮膜を広げて木から木へ滑空して移動することができます。
長い尻尾でバランスを取ることで、空中で方向を変えることも可能です。風にのると約50mも滑空することがあるようです。
木の幹に開けた穴の中を巣にして、基本的には単独で生活をしますが、冬になると数匹が集まって身を寄せ合い、寒さを凌ぐ習性があります。
リス科の特徴として歯が伸び続けるので定期的に病院で切ってもらうか、堅い木でできたおもちゃをかじってもらうなどのケアが必要です。
食性は雑食性で木の実や種子、果物、新芽、樹皮、昆虫、鳥の卵などを食べます。
フクロモモンガの特徴
体長:16~21㎝
体重:90~150g
尾長:17.6~19㎝
オーストラリア北部から南東部、ニューギニア島、ビスマルク諸島の温帯から熱帯の森林に生息しています。カンガルーのように腹部に育児嚢を持ち、生まれて間もない子供をその袋の中で育てます。
夜行性で昼間は木の洞(うろ)に作った巣の中で休みます。体の皮膜を広げ、木から木へ滑空し、その飛距離は50mに達するといわれています。
警戒心が強く臆病ですが、群れでコミュニティを作る性質があるので人にも慣れやすいのが特徴です。
食性は雑食性で木の実、果物、新芽、花、花蜜、昆虫などを食べます。
モモンガの販売価格
ペットショップなどの販売店によっても異なりますが、15,000~30,000円ほどが相場です。
飼いやすさ
アメリカモモンガ
野性味あふれる本来の姿を楽しみたい、観賞用として飼いたいという人におすすめです。
しかし、アメリカモモンガを扱うペットショップが少なくなっているので入手は容易ではありません。
さらに、野性味、警戒心が強く懐きにくい性格です。
体臭が少なく、また排泄物の量も少ないので臭いはあまり気にならないでしょう。
フクロモモンガ
ペットとしてふれあい、癒しを求めるならフクロモモンガがおすすめです。
ペットショップで扱われているモモンガのほとんどはこのフクロモモンガです。
そのため、入手が容易であり、集団生活をする動物なので飼い主に懐きやすい特徴があります。
フクロモモンガは縄張り意識が強く、マーキングを行うので臭腺が発達しています。
そのため体臭が強く、排泄物の量も多くてとても臭うのでケージのこまめな掃除が必要です。
モモンガの寿命はどのくらい?
自然界では外敵から襲われたり、縄張り争いなどで多くが1年程度、長生きしても5年程度で命を落とすといわれています。
飼育下では平均5~7年、長ければ10~12年程生きる場合もあります。
小動物の中では比較的長い寿命を持っているので、長く一緒に過ごせるのも魅力です。
モモンガの飼育方法
モモンガの飼育方法を、必要な準備物と併せてご紹介します。
ケージ
モモンガは夜に活発に動き回ります。
ケージもなるべく大きなものを用意して、ストレスなく動き回れるようにしましょう。
巣箱・床材
モモンガは木の洞(うろ)に巣を作るので巣箱は木製がおすすめ。
そこにおがくずなどを入れて床材にしましょう。
おがくずはハムスターやウサギ用のもので問題ありません。
エサ入れ・水入れ
モモンガは体が濡れてしまうと乾くのに時間がかかってしまい、体調を崩す原因になります。
そのため、水入れはひっくり返されないようにある程度重いものが好ましいです。
給水ボトルを使用しても良いのですが、使い方が分からなくて水を飲まない場合もあるので注意しましょう。
エサ
モモンガは雑食性なのでエサの種類は豊富ですが、栄養バランスを考えると専用フードを中心に与えるのが良いでしょう。
しかし専用フードだけでも充分な栄養が取れないといわれています。
モモンガは野菜・果物などの植物質と昆虫などの動物質が必要なので、専用フードの他に新鮮な野菜や果物、コオロギなどの昆虫を与えましょう。
バランスの取れた食事を与えられるよう、「与えて良いもの」「与えてはいけないもの」を把握しておくことも大切です。
与えて良い野菜
小松菜、アスパラガス、キャベツ、ニンジン、白菜、キュウリ、セロリ、オクラ、カボチャ、チンゲン菜、トマト、タケノコ、ナス、エンドウ豆、ジャガイモ、ピーマン、サツマイモ、カブ、ズッキーニなど
与えて良い果物
リンゴ、完熟バナナ、ブドウ、サクランボ、キウィ、グレープフルーツ、桃、梨、パイナップル、イチゴ、ブルーベリー、レモン、ビワ、マンゴー、スイカ、オレンジ、メロン、柿、プルーン、いちじくなど ※砂糖不使用ならドライフルーツもOK
与えてはいけないもの
玉ねぎ(ネギ類)、ニンニク、シュウ酸塩が多い野菜(ほうれん草、レタス、ブロッコリー、未熟なバナナなど)、牛乳、チョコレート、カフェインの入ったもの(コーヒー、紅茶、緑茶など)
※シュウ酸塩が多い野菜はカルシウムを奪ってしまい、モモンガの体に良くありません。
また、モモンガは牛乳の乳糖を分解することができません。もちろん農薬や添加物も小さい体には毒になってしまうので極力避けましょう。
その他
「止まり木」や「コーナーステージ」「ハンモック」などをケージ内に取り付けることで、より野生環境に近くなり、モモンガの運動不足解消やストレスを減らすことができます。
モモンガが突然死する4つの原因
モモンガが突然死するには、以下の4つの原因がありますが、この中でも一番多い原因は下痢です。
・下痢
・低体温(体温調整不全)
・先天的な健康問題
・母親モモンガの育児放棄
下痢
モモンガの突然死の中で、最も多い原因は下痢です。特に、離乳後間もないベビー期のモモンガは、下痢によって短期間で深刻な脱水症状に陥り、命を落とすリスクが高くなります。
下痢の主な原因は、コクシジウムと呼ばれる微小な寄生虫です。この寄生虫に感染すると、下痢だけでなく、食欲の低下や体重減少といった症状が現れます。症状が悪化すると、血が混じった便が見られることもあります。
感染は主に糞便を介して広がります。つまり、感染したモモンガの糞便に含まれる寄生虫を、別のモモンガが何らかの形で口にすることで感染が広がります。そのため、同じケージで複数のモモンガを飼育している場合、感染が広がりやすくなります。
また、赤ちゃんモモンガは腸の機能が未発達で、環境の変化に非常に敏感です。
気温や臭い、食事、日常のリズム、さらには飼い主の変化など、どんな小さな変化でも体内のバランスを崩す可能性があります。これにより、腸内の悪玉菌が急激に増殖し、下痢を引き起こすことがあります。
低体温(体温調節不全)
モモンガは適切な温度管理がされない場合、体温が急激に低下し、命を落とすことがあります。特にベビー期のモモンガは体力が十分でないため、低体温症のリスクが高まります。
普段活発なモモンガが突然動きを遅くなったり、エサや水分の摂取量が極端に減少したりします。体全体が冷たくなくなるのも症状です。
先天的な健康問題
その個体が遺伝子的に弱かったり、心臓や呼吸器、内臓などに、なんらかの病気を持って生まれた場合があります。
具体的には、心臓の異常があると血液の循環がうまくいかず突然の心不全を起こすことがあり、呼吸器の問題があると呼吸が困難になり急に息ができなくなることがあります。
また、内臓の異常は栄養の吸収や毒素の処理がうまくいかず、急に体調を崩す原因となります。
母親モモンガの育児放棄
育児中の母親モモンガは非常に神経質になり、ストレスが原因で育児を放棄することがあります。赤ちゃんモモンガに人間の臭いが付く、周囲の環境が不安定になるといった要因で、そのリスクが高まります。
予定より早くベビーが袋から出たり、母親が世話をしない場合は育児放棄が疑われます。
育児放棄されたベビーの生存率はわずか20%以下と言われています。
モモンガの死ぬ前の症状・兆候を察知するのは難しい
モモンガが亡くなる前には前述した「エサを食べない」「水を飲まない」「動かない」「動いても弱々しい」「聞いたことのない鳴き方をする」などの症状がみられることもあります。
また、「てんかん」「発作」「くしゃみ、鼻水」「めやに」「いぼ」が出ることがあります。
しかし、野生動物は外敵から狙われやすくなるのを避けるため、体調を崩してもあまり表に出しません。
野生の習性が残っているモモンガも同じで、飼い主様が体調不良に気付くのは難しく、気が付いた時には手遅れになっていることが多いようです。
これがモモンガの突然死が多いといわれる所以と考えられます。
大切なのは、このような出来事に対して自分を責めないことです。
モモンガの赤ちゃんは繊細な生き物であり、飼い主の愛情と献身にもかかわらず、時として予期せぬ健康上の課題に直面することがあります。
あなたが一生懸命、最善を尽くしていることを忘れないでください。完璧な飼育は存在せず、どんなに注意深く世話をしていても、時には避けられない状況が起こり得るのです。
もし、愛するモモンガが亡くなった場合、きれいな姿を保つために適切な安置を行い、火葬の準備をすることが大切です。これにより、最後のお別れを心穏やかに迎えることができます。
モモンガの安置方法はこちらで詳しくご紹介しておりますので、ぜひご参照ください。
モモンガが体調を崩したら?
突然死する前には「エサを食べない」「水を飲まない」「動かない」「動いても弱々しい」「聞いたことのない鳴き方をする」などの症状がみられます。
このような場合には直ちに病院へ連れて行き、診察してもらいましょう。
長生きのために気を付けること
愛情を注いでいるモモンガにはできる限り長生きしてもらいたいですよね。
私たち人間にとってはなんでもないことでも、モモンガにとっては健康を害する重大なこともあります。
モモンガのためにできることを今一度、見直してみましょう。
飲み水
水道水
塩素を多く含む水はモモンガの小さな体には大きな影響が出てしまいます。
地域によっては塩素濃度が高めのところもあるため、浄水器を通す、一度沸騰させて冷ますなど、塩素を飛ばした水を用意してあげましょう。
水入れが合わない
給水ボトルを使用している場合など、飲み方が分からずあまり水を飲まないことがあり、水分不足になってしまいます。
モモンガは水分不足に陥ると12時間以内に亡くなるケースが多いです。
水を入れる容器を変える、モモンガ用のミルクを与えるなどして解消しましょう。
エサ
前章でもご紹介しましたが、モモンガが食べてはいけないものを与えないように注意してください。
誤って食べてしまった場合にはすぐに病院に連れて行きましょう。
飼育環境
飼育頭数
アメリカモモンガの場合は単独で生活する習性があるので1匹での飼育も問題ありません。
対して、フクロモモンガの場合は群れで生活する習性があるので2匹以上で飼うのが望ましいようです。
フクロモモンガを1匹のみで飼育した場合、飼い主様に慣れていない場合や一匹だけにする時間が長いと孤独からストレスを抱え体調不良になってしまうことがあるようです。
多頭飼育する際の注意点としてはオス同士、メス同士、オス1匹に対してメス数匹の組み合わせなら大丈夫ですが、メス1匹に対してオス数匹はNGです。
野生でもオス1匹に対してメス数匹の群れを作るので、メス1匹に複数のオスを一緒に入れることはそれぞれに大きなストレスを与えることになります。
温度設定
室内の温度は24~25度を維持するのがベストです。多少変化したとしても23~28度を保ちましょう。
モモンガは温度変化に敏感で、寒さに弱い動物です。
寒すぎると病気を発症することが多く、暑すぎても熱中症になってしまいます。
衛生面
不衛生な環境は病気の原因になります。
月に1度はケージを掃除し、日光消毒や煮沸消毒をしましょう。
普段の拭き掃除には、動物に優しい次亜塩素酸水を使用してください。
また巣箱の中は3日に1度は確認し、おがくずを取り換えましょう。
モモンガは排泄物を飛ばすことがあるので、ケージの床や周りにはペットシーツや新聞紙を敷いておくと良いでしょう。
放し飼い
モモンガが慣れてくると部屋の中に放して遊ばせる方も多いです。
運動不足解消に良いのですが「電気コードをかじられる」「隙間に入って出られなくなる」「食べてはいけないものを誤飲する」などの思わぬ事故に繋がることもあります。
予め危ないものは取り除き、飼い主さんの見ているところで遊ばせるようにしましょう。
かかりつけ医
モモンガなどのエキゾチックアニマルを診ることができる動物病院も増えてきたとはいえ、まだ少ないのが現状です。
体調が悪化してから病院を探しているのでは間に合いません。日頃からかかりつけ医や救急で診てもらえる病院を探しておきましょう。
まとめ
「モモンガに突然死が多い」といわれる所以や体調を崩してしまう原因とその予防策などを紹介しました。
愛くるしいモモンガとの楽しい生活を1日でも長く過ごすため、普段の飼育環境やエサなどにも注意して、体調の変化にもいち早く気付けるようにしたいですね。