ほとんどの動物は私たち人間よりも寿命が短く、いつか別れの日がやってきます。我が子のように可愛いペットちゃんとのお別れは、どんなに覚悟をしていても辛く、ペットロスになる飼い主様もたくさんいます。
また、新しいペットちゃんを飼いたくても罪悪感から、飼っていいものかと悩むこともあると思います。そこで今回は、ペットロスや新しいペットちゃんを飼うタイミングについてご紹介します。
この記事の監修者
高間 健太郎
(獣医師)
大阪府立大学農学部獣医学科を卒業後、動物病院に勤務。診察の際は「自分が飼っている動物ならどうするか」を基準に、飼い主と動物の気持ちに寄り添って判断するのがモットー。経験と知識に基づいた情報を発信し、ペットに関するお困り事の解消を目指します。
ペットロスとは?
ペットちゃんが亡くなった出来事により、悲しみを抱えている状態のことをペットロスといいます。大切なペットちゃんが亡くなった際に、ペットロスになることは珍しいことではありません。しかし、その状態が長引きひどくなると「ペットロス症候群」と呼ばれる心の病気になり、精神や身体にまで影響が出てくることもあります。
症状には過食もしくは拒食など食欲の異常や眠れなくなる・頭痛・腹痛・吐き気・下痢・便秘・めまい・しびれなどがあります。これらの症状が続くようであれば放置せずに病院で診断を受けるようにしましょう。
また、精神状態によってはペットロスの状態が長引いたり、悪化してしまったりするケースも考えられます。
自分を責めてしまう
「もっと早く病院に連れて行ってあげればよかった……」「私がダメな人間だからあの子は死んでしまったんだ」など自分を責めてしまう飼い主様も多いです。特に交通事故などで突然ペットちゃんを亡くした方は自分を責めてしまいがちです。
強い後悔や自責の念に駆られるのは、ペットちゃんのことを愛していた証拠です。気持ちはわかりますがご自身を責めてばかりいる飼い主様を見るのはペットちゃんも辛いはず。どうしても自分を責めてしまう場合は、専門家に相談しましょう。最近はペットロス専門のカウンセラーも増えており、オンラインカウンセリングに対応してるところもあります。
人からの言葉
価値観の違いから「たかがペットで、そこまで落ち込まなくても……」というような言葉を言われることもあると思います。
不用意な発言や励ましによって傷つくことを恐れ、一人で思いを抱え込んでしまうことも重症化の原因です。
筆者が実家で飼っていた犬が亡くなった際、母に食欲の減退や不眠などの症状が出たことがありました。今思えば母はペットロスに陥っていたのだと思います。
他の家族は悲しさを感じてはいたものの、母と比べれば早めに立ち直ったため「どのようにケアしてあげればいいか?」と関わり方に迷ったことを覚えています。
このように、家族のような親しい存在でもペットちゃんを亡くした悲しみの大きさが完全に一致するとは限りません。
特にペットちゃんの場合は家族の一員として抱く思いだけではなく、関わり方のスタンスによって感情に温度差が生まれやすいです。
その方の気持ちを考えていないと、不用意な発言で大切な人を傷つけることも考えられるため、注意が必要です。
環境やタイミング
仕事が忙しい時期や恋人と別れたタイミングなど、ペットちゃんを亡くした悲しみだけでなく、その他の悩みが重なって重症化することもあります。ひどくなると精神的に病んでしまうことも。悩みを一つずつ切り離して考えましょう。
ペットロスを乗り越えるために
我が子同然のペットちゃんとのお別れは辛い出来事で、誰もがペットロスになる可能性があります。そのためペットロスになった場合にどのように乗り越えて行けば良いのか、その方法を知っておくことはとても重要です。
この章では乗り越えるために効果的な方法をいくつかご紹介します。
ゆっくりと身体を休ませる
家族が亡くなった際は、忌引き休暇といって自宅で故人を悼む期間として数日間、学校や会社をお休みできる場合があります。ペットちゃんの場合は、忌引き休暇に認められていないところがほとんどですが、飼い主様にとっては大切な家族です。有給休暇など休みが取れる環境であれば、数日間お休みを取って身体を休ませてあげましょう。
また、休みが取れない場合でも、無理はせず軽い運動やしっかりと睡眠・食事を取り規則正しい生活を心がけましょう。ペットロスで食欲が低下したりあまり眠れなくなることもあると思いますので、ご自身のペースで少しずつ心身を休ませ、癒してください。飼い主様が健やかに過ごすことで、ペットちゃんも安心して虹の橋を渡れるはずです。
しっかりと向き合う
ペットちゃんを思い出すと辛くなるからと、できるだけ考えないようにする方もいらっしゃいます。しかし、悲しみは我慢せず、しっかりと向き合うことで乗り越えられることもあります。写真を見て話しかける、手紙を書くなど感情や涙を我慢せずしっかりと受け止めましょう。涙を流すことで気持ちが落ち着いたり軽くなることもありますので、自宅など感情を表に出せる環境で悲しみと向き合ってみましょう。
同じ経験をした人と交流する
周りに同じ経験をした方や、同じ境遇の方がいれば連絡を取ってみるのもいいでしょう。周りにいない場合は、インターネットを使って調べてみれば同じ境遇の人と出会えるコミュニティなどの場がたくさんあります。
また、ペットロスに関する体験などを書いたブログや本を読んでみるのもいいでしょう。他の人の体験を知ることで「こんなに悲しいのは私だけじゃなかったんだ」と孤独感が和らぎ、気持ちが楽になることもあります。
ペットちゃんを亡くした後の過ごし方
ペットちゃんを失って悲しくても、人生は続いていきます。
いつか悲しみを受け入れられる日が来る日を信じて、生活していくことがペットちゃんへの何よりの供養になるはずです。
できる限り普段通りに生活する
深い悲しみに暮れているときはご飯が喉を通らない、寝付けないなど食事や睡眠などの生活リズムが乱れることが多いです。
しかし、無理に生活リズムを戻すことは難しいため「眠れないが横になって休む」「お粥やゼリーなど消化の良いものを少しだけ食べる」のように、ペースはゆるやかにしたうえで、できる限り普段通りに生活を送ることが大切です。
残されたペットちゃんに気を配る
複数のペットちゃんを飼育している場合は、残されたペットちゃんがストレスを感じていないか気を配りましょう。
特に、記憶力が良い犬や猫の場合は食欲が無くなったり、家の中をずっと探し回ったりと、一緒に暮らしてきた相方を恋しがるような様子を見せることがあるからです。
大切な家族を失って寂しいのは自分だけではありません。残されたペットちゃんが寂しい思いをしないよう、これまで以上に愛情を注いであげましょう。
無理に気持ちを抑え込まない
悲しい気持ちを抑え込んでしまう方も多いですが、無理に気持ちを抑え込むことは良い事なのでしょうか。
アメリカの精神科医であるエリザベス・キューブラー=ロスが提唱した「死の受容のプロセス」では死を目前にした人の心は5つの段階を踏んで死を受け入れ、安らぎを取り戻していくとされていますが、このプロセスはペットちゃんを失った飼い主様の心にも当てはめることができます。
段階 | 抱く気持ち |
---|---|
第1段階:否認 | 亡くなったことを信じられない |
第2段階:怒り | 現実を認められず、怒りを感じる |
第3段階:取引 | 奇跡が起きてペットちゃんが生き返るように祈る |
第4段階:抑うつ |
奇跡は起きず、亡くなったことを認めざるを得なくなる 深い悲しみに暮れる段階 |
第5段階:受容 | 悲しみを受け入れて、元の生活を取り戻す段階 |
悲しみのあまり周囲に怒ることも、深い悲しみに暮れてしまうことも、どちらもネガティブに捉えてしまいそうになりますが、このプロセスに当てはめれば、どの感情も悲しみを受け入れるために必要なことだと思えるのではないでしょうか。
無理に感情を抑え込むことは、より悲しみを長引かせることにもつながります。周囲のことを考えることも大切ですが、自分の感情にも向き合ってあげてください。
*参考サイト
仲間を作る
ペットちゃんを飼っている人にしかわからない情報や悩みがあります。同じように家族の一員としてペットちゃんを飼っている仲間を作ることで、悩んだ時や困った時に相談することができ心の支えになることも。
ペットのコミュニティーに参加するなど、他者と交流してみるのもいいでしょう。
新しいペットを迎え入れるタイミング
ペットロスから回復するには新しくペットちゃんを迎え入れるのが良いと言われていますが、新しいペットちゃんを迎えるタイミングは、人によって異なります。すぐに迎え入れても問題ない方もいれば「もうこんなに悲しい思いをしたくない」という気持ちになり何年経っても新しい子を迎えられる精神状態でない方もいらっしゃいます。
新しいペットちゃんを飼いたいと思われても、今がその時期なのか判断がつかないこともあると思います。
この章では新しくペットちゃんを迎え入れるためのステップをご紹介します。
家族と話し合う
もしご家族で飼われていたのであれば、家族全員の気持ちを確かめないといけません。生前は家族の中心となり、たくさんの愛情や癒しを注いでくれていたペットちゃん家族にとっても大切な存在ですから、同じように悲しい気持ちでいるはずです。一人で判断するのではなく、家族全員で新しい子を迎える心の準備ができているか話し合いましょう。
また、話し合いをする場合は、四十九日法要など気持ちに区切りを付けられるタイミングで行うと良いでしょう。
ペットちゃんの法要を行う日については、こちらでまとめてあります。
動物と触れ合って確認する
友人のペットちゃんやペットショップ、動物と触れ合えるカフェや動物園などに行って動物と触れ合ってみましょう。気持ちの整理がついていない場合は、接することが辛く涙が溢れてくることもあると思います。
その様な場合は急いで迎え入れるようなことはせず、気持ちが落ち着くまで待ちましょう。反対に「また飼いたい」という感情が起これば検討してみてもいいかもしれません。
運命の出会いを待つ
愛する存在との別れを経験して「二度とペットは飼わない」と誓いを立てていた方でも、別のペットちゃんに「運命」を感じて新しく家族に迎え入れるケースは多いようです。
しかし、ペットちゃんの命を預かる以上は「運命を感じてお迎えすること」と「悲しみを埋めるための衝動」はしっかりと区別して判断する必要があります。 まずは落ち着いて、ご自身の気持ちと向き合ったうえでお迎えするか考えましょう。
いなくなったことを受け入れたタイミング
ペットちゃんとの別れを受け入れるまでの道のりは、先の見えないトンネルを進むようなもの。
その時間はご自身の気持ちと向きあったり、ペットちゃんと過ごした思い出を振り返ったりする大切な時間でもあり、愛する存在がもう戻ってこないことを受け入れるための時間でもあります。
そんな時間を過ごして悲しみを乗り越えて、大切な家族がいなくなったことを受け入れることができ、それでも新しい家族との生活を望む場合は、検討してみるのもいいかもしれません。
新しいペットを迎える注意点
新しいペットちゃんを迎え入れる準備ができてから「また、同じように悲しい思いをしたらどうしよう」と急に不安な気持ちに襲われることもあります。
この章では新しいペットちゃんを迎え入れる際の注意点をご紹介します。
寿命を理解する
ペットちゃんが亡くなった際、「私が健康に気をつけてあげられなかったせいだ」と自分を責めてしまう方もたくさんいます。しかし、どんなに健康に気を遣っていても、ほとんどの動物は人より長く生きられることはありません。
私たちよりも早く亡くなるということを再度理解し、元気なうちに何をしてあげられるかを考えて接するようにしましょう。
逆に「先に亡くなったら悲しいから」と寿命の長いペットちゃんを迎えたくなる方もいるかもしれませんが、その場合飼い主様が先に亡くなってしまうこともあります。最期まで責任を持って面倒を見られる寿命のペットちゃんを迎え入れましょう。
依存しすぎない
ペットちゃん中心で生活をしていた飼い主様は、とくに重症化しやすい傾向にありますが、依存しすぎるのもよくありません。仕事や趣味など、他に没頭できることを探すのがいいでしょう。
前の子と比較しない
新しく迎え入れたペットちゃんに、旅立ったペットちゃんの代わりを求めてしまうケースもあります。
旅立った子を無理に忘れようとしたり、目の前の子に無理に代わりを努めさせようとしたりせず、迎え入れた子の幸せのために何をしてあげられるか考えられてあげましょう。
まとめ
家族の一員としていつも癒しや幸せをくれたペットちゃん。大切な家族が亡くなった際は、深い悲しみに打ちひしがれてペットロスになることもあるでしょう。
もし、ペットロスになってしまったら無理のない範囲で現実としっかり向き合い、ご自身のペースで乗り越えていきましょう。そして、少しずつペットちゃんを笑顔で思い出せるようになれば、また新しいペットちゃんを家族として迎え入れたい気持ちになることもあると思います。
新しいペットちゃんを飼うことは決して悪いことではありません。ご自身の気持ちに正直に決めることが何より大切です。